R18短編小説

【評価高め】新入社員のマジメ女子がおっさんの俺の為にイメチェンしたなんて気づくはずない(その後)

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執筆:編集部(原記事に基づく再編集) 編集部による品質基準審査済み
【評価高め】新入社員のマジメ女子がおっさんの俺の為にイメチェンしたなんて気づくはずない(その後)

たくさんの励ましの言葉と投票をいただき、ありがとうございました。続きが読みたいという声に背中を押されて、その後のふたりを書いてみます。

はからずも唯花を“持ち帰って”しまった翌朝。俺は、ひどく重たい頭と、それ以上に厄介な罪悪感を抱えたまま会社へ向かった。いくら両想いだったとはいえ、教育係という立場で、しかも十六も年下の新入社員に手を出したのだ。平静でいられるはずがない。

それでも、ベッドの中で寄り添っていた唯花のぬくもりを思い出すたび、胸の奥だけが妙にやわらかくなる。後ろめたさと幸福感が、同じ場所でぶつかり合っていた。

(あいつ、気まずそうにしてないだろうか……)

そんな不安を引きずりながら自席へ向かうと、唯花はいつも通り、背筋をぴんと伸ばしてパソコンに向かっていた。髪は華やかなセミロングの茶色に変わっているのに、表情は以前のまま、真面目で落ち着いた栗原唯花そのものだ。昨夜のことなど、何もなかったみたいに淡々とキーボードを打っている。

(よかった……のか? いや、俺だけが意識しすぎてるの、逆に恥ずかしいな……)

午前の仕事をどうにかやり過ごし、気持ちを切り替えようと昼前に給湯室へ向かった。サーバーから紙コップへコーヒーを注ぎ、一口飲んだ、その瞬間だった。

静かな足音が近づいてきて、誰かが入ってくる気配がする。振り返ると、そこにいたのは唯花だった。

彼女は周囲に人がいないことを確かめると、小さく足早にこちらへ寄ってくる。そして、目の前まで来るなり、上目づかいで頬を赤らめた。

「……田村さん。昨夜は、その……すごかった、です」

「……ッ、ぶふぉっっ!!?」

飲みかけのコーヒーを吹き出しそうになった。胸を叩きながら激しくむせる俺を見て、唯花は口元を両手で隠してくすくす笑う。

「く、栗原っ、会社でなんてことを……!」

「ふふ。冗談です。田村さん、すっごくおもしろい顔」

真面目一筋で、無駄口ひとつ叩かなかったあの唯花が、たった一晩でこんな顔を見せるようになるなんて。あまりのギャップに、心臓がひどく跳ねた。

だが、浮かれてばかりもいられない。いい年をした大人として、ここはきちんと線を引くべきだ。

「……栗原、ちょっと聞いてくれ」

声をひそめて向き合うと、唯花もいたずらっぽさを引っ込めて、少しだけ真顔になる。

「昨日のことは、本当にその……俺も、お前のことが好きだ。そこは間違いない。ただ、俺たちは会社の教育係と新人だ。公私のけじめはつけないといけない。だから、会社では付き合ってることは絶対に内緒にしてほしいんだ」

すると、さっきまで柔らかく笑っていた唯花が、子どもみたいに頬をふくらませた。

「ええー? どうしてですか? 私、会社の人みんなに、田村さんは私のものだって宣言したいくらいなのに」

「バ、バカ言うな! 頼むから勘弁してくれ!」

俺は周囲に声が漏れないよう必死に抑えながら、手を合わせた。

「考えてもみろ。三十八歳のおっさん係長が、入社したばかりの二十二歳の新人女子を食っちまったなんて噂が流れたら、俺は社会的に死ぬ。恥ずかしすぎて会社に来られなくなるレベルなんだよ。お願いだから、頼む!」

必死すぎる懇願に、唯花はしばらく不満げに唇を尖らせていたが、やがて小さく息を吐いた。

「……わかりました。田村さんがそこまで言うなら、しぶしぶ納得します。その代わり……」

一歩近づき、彼女は俺の耳元で囁く。

「会社では田村さん、て呼びます。でも、二人きりになったら……俊哉さん、て呼んでもいいですか?」

(……ずるい。ずるいぞ、唯花。可愛すぎるだろ)

俺は照れ隠しに、こほんと咳払いをひとつした。

「……まあ、二人だけの時は、好きに呼んでいいよ」

「はい、俊哉さん」

うれしそうに微笑んだ唯花は、すっと表情を引き締めて「失礼します、田村係長」といつもの声に戻り、給湯室を出ていった。

残された俺は、冷めかけたコーヒーを一気に飲み干す。これから先の社内恋愛が、どれだけ波乱含みになるのか。うれしさと恐ろしさがないまぜになった、妙に情けないため息が漏れた。

翌日の午後、休憩時間。メールの確認を終えた俺は、気分転換にコーヒーを買おうと給湯室へ向かった。ドアの手前まで来たところで、中から楽しげな話し声が聞こえてきて、思わず足が止まる。

声の主は、唯花と、彼女におしゃれを教え込んだ先輩社員の三好琴乃だった。

「……でさ、唯花ちゃん。実際のところ、田村さんのこと、どう思ってるわけ?」

好奇心を隠そうともしない琴乃の声に、俺の心臓が跳ねる。自分の名前が出た瞬間、反射的に壁際へ身を寄せた。

「えっ、田村さんですか? すごく、頼りになりますよ。仕事も丁寧に教えてくれますし……この前も、初めて営業に出た帰りに、飲みに連れて行ってくれたんです」

唯花の声は、会社用の少しあらたまった調子のままだ。だが、琴乃はそこでニヤリと笑う。

「へえー、二人きりで飲み? 唯花ちゃん、こんなに可愛くなったんだから、田村さんに襲われちゃったりしなかった?」

「な、なに言ってるんですかっ!?」

唯花の声が一気に裏返った。

「た、田村さんはそんなことしません! すごく紳士的で、真面目で、優しくて……っ。そんな、変なこと言うの、やめてください!」

壁の向こうで聞いている俺の顔は、たぶん真っ赤になっていた。まったく紳士的でもなく、不真面目なことまでしてしまったが、少なくとも彼女を大切には扱ったつもりだ。

「あはは、ごめんごめん。冗談だって。あの田村さんが唯花ちゃんを襲うなんて、天地がひっくり返ってもないよねー」

琴乃は笑い、それから少し声を落とした。

「まあ、実際ね……田村さんが女子に手を出すなんて、ほぼあり得ないからね」

「……え? どうしてですか?」

唯花の声が、純粋な疑問と少しの不安を混ぜた色に変わる。俺は胸の奥が嫌な音を立てるのを感じた。

「これ、内緒だよ?」

琴乃は周囲を気にするように、さらに声を低くした。

「田村さん、今でこそ一人の時間を楽しんでるみたいに見えるけど……実は八年前、社内恋愛してたんだって。同期の女性と結婚寸前までいってたらしいよ?」

「結婚、寸前……」

「うん。でもね、その彼女が、当時の部長と不倫してたのがバレちゃって。しかも、その部長が会社のお金を横領してて、二人で逃げるように消えちゃったんだって」

給湯室の空気が、急に冷えたように感じた。脳裏には、すっかり風化したはずの八年前の絶望が、苦い記憶と一緒に蘇ってくる。

「田村さん、そのとき相当傷ついたみたい。恋愛に対して完全に臆病になっちゃってさ……。それ以来、誰も好きにならないように、深く関わらないようにして、自分を守ってるんじゃないかな」

琴乃はそこまで一息で言い切ると、小さく息を吐いた。

「だからさ、田村さんはすっごくいい先輩だけど……心が完全に閉じちゃってるから、誰も踏み込めないんだよね」

「そう、なんですか……」

唯花の、消え入りそうな声がした。

壁にもたれたまま、俺は拳を強く握る。十六歳の年の差や社内の目を理由にして、唯花を遠ざけようとした。でも本当は、またあの痛みを味わうのが怖かっただけだ。三好の言う通り、俺は臆病に自分を守っていた。

(三好のヤツ、余計なことをべらべらと……)

腹が立たなかったわけじゃない。だが同時に、少しだけ救われた気持ちもあった。あの手ひどい失恋を、自分の口から唯花に打ち明けるのはあまりにみじめで重すぎる。こうして他人の口から、しかも“被害者”として伝わるなら、まだましなのかもしれない。

その後、唯花は何事もなかったように給湯室を出ていき、午後からも普段どおりに仕事をこなしていた。上司と部下として、淡々と、いつも通り完璧に。

俺の過去を知って幻滅したのか。それとも、気をつかってくれているのか。彼女の本心はつかめないまま、数日が過ぎた。

そんなある日の昼休み。食後のコーヒーを買いに、社員食堂の隅にある自動販売機へ向かった。小銭を入れようとした、その時だった。

自販機の裏手にある休憩スペースから、楽しそうな男女の声が聞こえてくる。

「本当に栗原さんって、入社したてとは思えないくらいスキルが高いよね。この前の資料もさ、あのまとめ方、課長も感心してたよ」

声の主は営業部の木村だった。少し軽い雰囲気はあるが、仕事には真面目な若手のホープだ。

「本当ですか? 木村先輩にそう言っていただけると、すごく励みになります」

木村と話していたのは、唯花だった。事務所で俺に見せるような、すました顔でもない。かといって、二人きりの時の甘えた表情でもない。年相応の、うれしそうな笑顔を向けている。

「いや、マジだって。今度よければ、その資料の作り方、俺にもコツを教えてよ。お礼にさ、今度おいしいフレンチでも奢るからさ?」

俺にはとうてい真似できない、軽やかな口説き文句だった。木村の目は、明らかに唯花を一人の魅力的な女性として見ている。

「……フランス料理、ですか?」

唯花は少し困ったように、小首をかしげた。

その光景を見た瞬間、胸の奥がきしんだ。今すぐ割って入って、「俺の唯花に手を出すな」と言ってやりたかった。

だが、休憩室のパーテーションに映る自分のさえない姿が目に入った瞬間、足が止まる。

今年で三十八歳。しかも、過去の失恋を引きずった、心に傷のある男だ。片や木村は二十九歳。これからいくらでも伸びていく、未来のある男。

並んで楽しそうに話す二人を見ていると、驚くほどしっくりきてしまう。客観的に見れば、たしかにお似合いなのかもしれない。

(……だよな。唯花には、ああいう若いヤツの方が似合うんだ)

十六も年下の、これからどんな可能性だってある新人女子。それを、自分の寂しさを埋めるために囲い込んでいいはずがない。俺みたいなおっさんは、彼女の隣に立つべきじゃないのかもしれない。

劣等感とあきらめが、じわじわと胸を侵していく。

「友達に聞いたんだけど、すっごくおいしい店らしいんだ。俺ひとりじゃ恥ずかしくて入れないから、一緒に行ってくれないかな?」

木村はさらに距離を縮め、さわやかな笑みで誘い続けていた。

唯花は「あ、えっと……それは……」と、完全に困り果てた様子で視線を泳がせている。うまく断れずに戸惑っているのは、見ていてはっきりわかった。

助けに入るべきか。いや、俺が口を挟むのは野暮だ。何より、公私のけじめを言い出したのは自分だ。

胸をかき乱されたまま、俺はわざと二人の視界に入るように自販機へコインを叩き込んだ。

「あ、おつかれさんです」

「おう……」

ガコン、と缶コーヒーが落ちてくる。

「あ……田村さん」

唯花の声が聞こえなかったふりをして、俺はそのまま事務所へ戻った。

(……これでいいんだ。俺が首を突っ込むことじゃない)

そう言い聞かせて、午後からは唯花から逃げるように外回りへ出た。取引先を何軒も回り、わざと時間を潰して、夜もすっかり更けてから事務所へ戻る。

ガチャリとドアを開けると、誰もいないと思っていたフロアの奥に、ひとつだけ灯りが残っていた。

そこにいたのは、気まずいことに唯花だった。

今日だけは顔を合わせたくなかった。胸の奥にくすぶる感情を、なんとかやり過ごしたかったのだが。

それにしても、いつもは定時で帰る唯花が、こんな時間まで残っているなんて珍しい。

「……栗原? 珍しいな、こんな時間まで残ってるなんて。終わらない仕事があるなら、俺も手伝おうか?」

声をかけながら近づくと、唯花はパソコン画面を見つめたまま、手を止めた。そして、こちらを振り向きもせず、冷えた声で言う。

「いいえ、結構です。一人でできますから」

「え……?」

あまりにも突き放すような態度だった。配属されてから一度も見たことのない、怒りを含んだ横顔に、思わずたじろぐ。

「あの、栗原……? 何か怒ってる?」

「怒ってます!」

イスを乱暴に鳴らして、唯花が勢いよく立ち上がった。黒目がちな大きな瞳は、じわりと涙をためながら、まっすぐ俺をにらんでいる。

「なんで……なんで、助けてくれなかったんですか!?」

「えっ……何の話だ?」

「お昼のことです! 自動販売機のところで、私、木村先輩に誘われて、すっごく困ってたの、田村さん見てましたよね!? なのに、どうして無視して行っちゃうんですか!」

感情を爆発させ、今にも胸ぐらをつかみかかりそうな勢いで詰め寄ってくる唯花から、俺は思わず目をそらした。

「それは……木村はお前とお似合いだし、俺みたいな年の離れたおっさんが邪魔しちゃ悪いと思って……」

「お似合いじゃ、ありません! 私は、田村さんが好きなのに……! 困っている私を置いていくなんて、本当に最低です!」

泣き出しそうに声を震わせながら、唯花は悔しそうに俺を見上げた。

冷静で真面目一筋だった彼女が、ここまで感情をむき出しにしてぶつかってくる。そのまっすぐな怒りと、不器用なほどの健気さに、俺は自分の情けなさを突きつけられた気がした。

「……でもさ、栗原」

剣幕に圧倒されながらも、なんとか声を絞り出す。

「付き合ってることは内緒にしろって、言ったのは俺だろ? あの場で俺が木村の邪魔をしたら、まわりに怪しまれるだろ。だから、なにも言えなかったんだよ……」

そうやって言い訳をする俺を、唯花は涙のたまった瞳で見つめ、静かに言った。

「……ウソです」

「え……?」

「そんなの、言い訳です。本当に私のことが心配なら、仕事の話をでっち上げてでも、私をあの場から連れ出せたはずです。……田村さんは、ただ逃げただけです!」

痛いところを突かれて、言葉に詰まる。唯花は俺の胸を小さく拳で叩きながら、さらに問い詰めてきた。

「じゃあ、私が他の男の人に取られちゃってもいいんですか? 木村先輩と、付き合っちゃってもいいんですか?」

「それは……」

彼女のまっすぐな視線から逃げるように、ふいっと目をそらしてしまう。

「それは、唯花が決めることだから。唯花が木村の方がいいって言うなら……俺は、仕方がないと思うよ。年の差だってあるしな」

自分でも嫌になるほどの、臆病な言葉だった。

また傷つくのが怖いから、最初からあきらめたふりをする。そんな俺の態度に、唯花は短く息を呑むと、次の瞬間、俺の胸に飛び込んできた。

「俊哉さんの……バカ!」

強い衝撃とともに、柔らかな感触が体を包む。驚く間もなく、唯花は背伸びをして、俺の唇に力強く自分の唇を押し当ててきた。

「ん……っ!?」

不意打ちのキスだった。甘い香りと、ほんのり湿った唇が、思考を完全に止めてしまう。

唇が離れると、唯花は俺のシャツをぎゅっと握りしめたまま、泣き顔で見上げていた。

「私は、絶対に俊哉さんを裏切りません。絶対に……っ!」

彼女の目から、大粒の涙がぽろぽろとあふれ出す。

「三好さんから聞きました。昔、すごく辛いことがあったって……。だから、誰も好きにならないようにしてたって。……でも、私はその人とは違います! 俊哉さんを傷つけるような人は、私が絶対に許しませんっ!」

やはり唯花は、すべてを知ったうえで、俺の臆病さを受け止めようとしてくれていた。

「もし……もし俊哉さんが私に内緒で浮気したとしても、本当は嫌だけど……っ、許したくないけど、でも、許しちゃうくらい、俊哉さんのことが好きなんです! だから……お似合いだなんて、他の人に譲るようなこと、もう絶対に言わないでください!」

ボロボロと涙を流しながら、必死に想いを伝えてくれる唯花。

十六歳の年の差なんて関係ない。過去の婚約破棄なんて関係ない。目の前にいる俺みたいなおっさんを、全身全霊で愛してくれている。

そんな彼女のあまりにも健気で、一途な想いを聞いて、胸の奥に頑丈にかけられていた鍵が、粉々に砕け散る音がした。

自分を守るために、こんなにも愛してくれる女の子を泣かせるなんて、それこそ男として最低だ。

「ごめん……唯花!」

揺れる気持ちと、隠せない本音

俺は、ようやく逃げるのをやめた。言い訳も、年の差も、社内の目も、全部ひっくるめて抱えたまま、それでも唯花の前に立つしかない。

「俺は……怖かったんだ。前に信じた相手に、ひどく裏切られた。だから、お前を本気で好きになればなるほど、また失うのが怖くなった。木村みたいな若いやつを見たら、なおさらだ。俺なんかより、そっちの方が自然なんじゃないかって、勝手に決めつけてた」

言葉にしてしまえば、みっともなさが一気に押し寄せる。それでも、唯花は目をそらさなかった。涙で濡れたまま、じっと俺を見ている。

「……それでも、私のことを見てくれないほうが、もっとつらいです」

その一言が、胸に深く刺さった。

俺は、あの夜からずっと、自分の痛みばかりを守っていたのだろう。唯花がどんな気持ちで隣に立っていたのか、少しも想像しようとしていなかった。

「ごめん。ほんとに、ごめん」

今度は、はっきりと謝った。すると唯花は、泣き笑いのような顔で小さく首を振る。

「謝るなら、ちゃんと私を見てください。逃げないで、ちゃんと」

その言葉に、俺は静かにうなずいた。

この先、何が起きるのかはわからない。社内の噂も、年齢の差も、過去の傷も、きっと簡単には消えないだろう。

それでも、唯花が俺のそばにいてくれるなら。臆病な自分を、少しずつでも変えていけるかもしれない。

夜のオフィスに、ふたり分の呼吸だけが静かに残っていた。

彼女の涙と、ようやく受け止める男の抱擁

唯花は、まだ少しだけ赤い目をしたまま、俺のシャツを握って離さなかった。俺もまた、その小さな手をほどく気にはなれなかった。

「俊哉さん」

「……ああ」

「今度は、逃げないでくださいね」

「逃げない。たぶん、もう逃げられない」

自分で言っておいて、少しだけ笑ってしまう。唯花も、こらえきれないように小さく吹き出した。

そうしてようやく、張りつめていた空気がほどけていく。

俺たちはまだ、何も終わっていない。むしろ、ここからが始まりなのだと思う。社内でどう振る舞うか。過去とどう向き合うか。唯花の真っ直ぐさに、俺がどう応えるか。

簡単じゃない。だけど、もう一人で抱え込むつもりはなかった。

「……帰ろうか」

「はい。俊哉さん」

その呼び方が、やけにあたたかく胸に残った。

注意点・失敗例

この先のふたりに必要なのは、勢いだけで突っ走らないことだ。気持ちが通じ合っていても、職場では立場や見え方がついて回る。

だからこそ、感情を優先しすぎて周囲への配慮を失うと、関係そのものがしんどくなる。誰にも知られないまま抱え込むのも、相手を遠ざけるだけで長続きしない。

大事なのは、好きだという気持ちを隠し続けることではなく、どう守りながら育てるかだ。

参考情報

    最終更新:

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