R18短編小説

クリスマス前夜、妻が仕掛けた手作りの夜

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執筆:編集部(原記事に基づく再編集) 編集部による品質基準審査済み

かなでくんを見送った朝、玄関に残った空気はまだ少しだけ熱を帯びていた。私はその余韻を抱えたまま、ひとりでシャワーを浴び、深呼吸をしてからクローゼットへ向かった。

夏用のシーツの奥、ほとんど忘れ物のように隠しておいた包みを取り出す。中から現れたのは、落ち着いた焦げ茶色のマフラーだった。編み目はところどころ不揃いで、きれいに整った既製品みたいにはいかない。それでも、指先に伝わる感触はやさしくて、何度もほどいては編み直した時間の重みが、静かにそこへ残っていた。

かなでくんの顔を思い浮かべる。困ったように眉を寄せながら、それでも最後には必ず嬉しそうに笑ってくれる、あの表情。そう考えただけで胸の奥が熱くなり、私はマフラーをぎゅっと抱きしめた。うまくできたかどうかより、どれだけ相手を思って作ったか。その答えが、この一本には詰まっている気がした。

プレゼントの準備を終えると、次は夕食だった。クリスマスの食卓を少し特別にしたくて、私はパエリアに挑戦することにした。チャーハンをうまく作れたことが、妙な自信につながっていたのかもしれない。魚介を炒めて、米を入れて、黄金色のスープで炊き上げる。頭の中では、もう立派なごちそうが完成していた。

スーパーで奮発した赤エビ、ムール貝、あさりを並べ、レシピを見ながら下ごしらえを進める。フライパンにオリーブオイルを敷き、にんにくと玉ねぎを入れた瞬間、香ばしい匂いが立ちのぼった。ここまでは順調だった。ところが、魚介を加えた途端に油がはね、私は思わず身を引いた。かなでくんがいれば、笑いながら代わってくれただろう。そんな顔が浮かんで、少しだけ寂しくなる。

それでも今日は私が主役だ。レシピ通りに具材をいったん取り出し、鶏肉とパプリカを炒め、お米を洗わずに加える。サフランを溶かしたスープを注ぐと、鍋の中がふわりと金色に染まった。見た目はとてもきれいで、うまくいきそうな気がした。強火で数分、弱火でじっくり、最後にもう一度火を入れる。そのはずだった。

少し目を離したすきに、香りが変わった。焦げる寸前の、あの危うい匂いだ。慌てて火を弱め、私は鍋の前で固まった。芯が残っているかもしれない。けれど、ここで動揺したら負けだ。料理は実験と同じ、失敗しても原因を確かめればいい。そう自分に言い聞かせながら、蒸らしの時間を見守った。

蒸らしを待つあいだに、私はデパートへ向かった。十二月二十四日、店内はどこも人だらけで、肩が触れそうなほど混み合っている。カップル、家族連れ、買い物袋を抱えた人たち。ひとりで歩く私は少しだけ場違いに感じたけれど、今日の準備を終わらせるまでは戻れない。

まず向かったのは、パーティーグッズの売り場だった。そこで私は、サンタ風のコスチュームを手に取る。みきさんから軽い調子で勧められたときは半信半疑だったのに、いざ目の前にすると、妙に現実味があった。箱の写真はかなり大胆で、見ているだけで頬が熱くなる。鏡の前で立ち止まっていると、通りすがりの男性と目が合い、私は慌てて視線をそらした。

そのままレジへ向かい、必要以上に早口になりながら会計を済ませる。袋を受け取ったあとも、なんだか落ち着かなかった。自分で選んだはずなのに、胸の奥がそわそわする。かなでくんは、これを見たらどんな顔をするだろう。驚くのか、笑うのか、それとも少し困ったように目を逸らすのか。想像するだけで、足取りが軽くなった。

次は、クリスマス用のオードブルを探すためにデパ地下へ向かう。ところが、そこはさらに混雑していた。ローストビーフの列に並んでいると、背後から何度も押されるような感覚があった。振り返る余裕もなく、私はただ身を縮める。混み合った売り場ではよくあること、と片づけたいのに、妙に嫌な気配がした。

やがて、背後にいた見知らぬ男性の手が腰のあたりに不自然に触れた。私は息をのんだ。怖い。けれど、すぐに声が出ない。人混みのざわめきの中で、逃げるタイミングを失ったまま、身体だけが固まってしまう。

そのとき、低く落ち着いた声が割って入った。「お客様、こちらは通路になりますので、少しお移りいただけますか」

振り向くと、そこにいたのは佐々木さんという店員だった。名札にそう書かれている。細めの目元に、穏やかな表情。派手さはないのに、不思議と安心できる顔立ちだった。私は助けられた安堵で、ようやく息を吐く。

誘導されるまま一歩動こうとした拍子に、私は少しつまずいた。とっさに差し出された手に腰が触れる。大きくて、温かい。ほんの短い接触なのに、心臓が妙に跳ねた。今朝までの熱がまだ身体に残っていたせいか、そのわずかな体温がやけに鮮明に感じられた。

「大丈夫ですか」

佐々木さんの声は静かだった。私はこくりとうなずく。香ばしい揚げ物の匂いの向こうに、清潔で落ち着いた気配がある。かなでくんとは違うのに、なぜか安心する。守られたことへの感謝と、触れられた余韻が混ざって、頬が熱くなった。

「ありがとうございました……佐々木さん」

名札を見て名前を呼ぶと、彼は少し驚いたように目を丸くした。それでもすぐに、丁寧に会釈を返してくれる。私はそのやり取りに、さっきまでの緊張が少しだけほぐれていくのを感じた。ほんの短い出来事だったけれど、今日の不安な気持ちを支えてくれるには十分だった。

買い物を終えて家に戻ると、パエリアはなんとか形になっていた。完璧ではない。けれど、焦げすぎてもいないし、見た目も悪くない。私はほっと息をつき、皿に盛りつけながら、テーブルの上にマフラーとサンタ服を並べた。どちらも、今日のために用意した特別なものだ。

かなでくんが帰ってくるまで、あと少し。私は台所の明かりを見上げながら、胸の中で何度もリハーサルをした。驚かせすぎないように、でも、ちゃんと喜んでもらえるように。うまくいくかどうかは分からない。それでも、誰かを思って準備する時間は、こんなにも心を満たすのだと知った。

やがて玄関の鍵が回る音がした。私は深呼吸をひとつして、笑顔を作る。今夜は、ただのクリスマスじゃない。私が選んだもの、編んだもの、作ったもの全部で、かなでくんを迎える夜になる。

注意点・失敗例

手作りの贈り物は気持ちが伝わりやすい反面、完成までに時間がかかる。早めに準備を始めないと、当日に焦って仕上がりが雑になりやすい。

料理も同じで、慣れていないメニューを本番でいきなり試すと、火加減や手順でつまずきやすい。特別な日のメニューほど、下調べと段取りがものを言う。

人混みでは、少しの油断が不快な接触やトラブルにつながることがある。混雑した場所では、無理に我慢せず、周囲のスタッフに早めに声をかけるほうが安全だ。

参考情報

  • 一般的な料理の下ごしらえと衛生管理の考え方
  • 百貨店・商業施設での混雑時の安全案内
  • 手編み小物の基礎的な作り方に関する一般情報

よくある質問

手作りのマフラーは、どのくらい前から準備すれば間に合いますか?
編み物に慣れていない場合は、最低でも2〜3週間前から始めると安心です。目数が多い作品ややり直しが出そうな場合は、さらに余裕を見ておくと仕上がりが安定します。
パエリアを家庭で作るときに失敗しやすい点は何ですか?
火加減が強すぎて焦がすこと、米の水分量が合わないこと、蒸らし時間が足りないことの3つが特に多いです。レシピの分量を守り、途中で何度も混ぜないほうが仕上がりやすくなります。
デパ地下のような混雑した場所で不快な接触を受けたらどうすればいいですか?
まずはその場を離れ、近くの店員や警備員にすぐ伝えてください。人混みの中では我慢せず、周囲の助けを借りることが最優先です。
混雑時のトラブルは、どこまでが店側に相談すべき内容ですか?
身体に触れられた、進路を妨げられた、強い不安を感じたといった場合は相談して問題ありません。売り場のスタッフは通路整理や警備への連携を行えるため、早めの申告が有効です。
特別な日の準備で優先順位をつけるなら、何から始めるべきですか?
食事、贈り物、当日の動線の3つを先に決めると迷いにくくなります。特に料理は当日の負担が大きいので、前日までに材料と手順を確認しておくと安心です。

まとめ

  • 手作りの贈り物には、出来栄え以上に気持ちが宿る。
  • 特別な日の料理は、段取りと火加減が仕上がりを左右する。
  • 混雑した場所では、違和感を覚えたら早めに助けを求めることが大切だ。
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