R18短編小説

入るつもりのなかった混浴温泉で起きた夜

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執筆:編集部(原記事に基づく再編集) 編集部による品質基準審査済み

以前、友人のまいと温泉へ出かけたときのことだ。

その宿には混浴の露天風呂があった。知ってはいたけれど、私たちは最初から入るつもりなどなかった。女湯にも外へ抜ける露天があり、そちらで十分だと思っていたからだ。

けれど、夜になって部屋で少し酒が入ると、空気はあっさり変わる。寝る前にもう一度お風呂へ行こうか、と廊下を歩いているうちに、まいがふいに「混浴のほう、どうなってるんだろうね」と言い出した。

その一言が、妙に耳に残った。

誰もいないなら、ちょっと見るだけ。そんな軽い気持ちだったはずなのに、気づけば二人でこっそり脱衣所をのぞき込んでいた。中は静まり返っていて、籠も何もかも空っぽだった。人の気配がないと、かえって好奇心が強くなる。

「ちょっとだけ見てみる?」とまいが笑う。私は止めるふりをしながら、結局そのまま一緒に中へ入った。

奥へ続く露天のほうには、白い湯気がふわりと立ちのぼっていた。想像以上に広い。岩に囲まれた湯船は開放感があり、夜空の黒さと湯の明るさが不思議に溶け合って見えた。人気がないぶん、余計に秘密めいていた。

「ねえ、誰もいないし入ってみる?」

まいがそんなことを言い出したとき、私は一度だけ「えっ」と声を上げた。けれど、すでにお酒の勢いは味方になっていた。タオルを巻いていれば平気だろう、そんな雑な理屈が、妙に納得できてしまう。

気づけば脱衣所で服を脱ぎ、薄いタオルを身体に巻いて、私たちは夜の露天へ出ていた。

お湯は驚くほど気持ちよかった。肩まで沈むと、冷えた空気と温かい湯がちょうどよく混ざり合う。二人で「いいね」「ほんとだね」と言いながら、しばらくはただ湯に身を任せていた。

ところが、まいが不意にタオルを見て言った。

「これ、巻いたままだと重くない? お湯吸うし、肌に張りついて気持ち悪くない?」

私は曖昧にうなずいた。たしかにそうだ。けれど、だからといって外す発想まではなかった。

「取っちゃう?」

まいは冗談めかして笑った。私はすぐに「誰か来たらどうするの」と返したが、まいは肩をすくめるだけだった。

「来たら来たでしょ。見られたって別に減るもんじゃないし、また巻けばいいじゃん」

その言い方が、あまりにも自然で、少しだけ眩しかった。私はもともと外で裸になること自体に抵抗があるほうではなかった。けれど、見られるかもしれないと思うと、胸の奥が妙にざわつく。逃げたいような、試してみたいような、そんな落ち着かない気分だった。

考え込んでいるうちに、まいが先に立ち上がった。

岩場のほうへ数歩歩き、ためらいもなくタオルを外す。夜風を受けたまいは、まるで温泉の湯気に溶けるみたいに、すっと背筋を伸ばした。

その姿は、同性の私から見ても妙にきれいだった。湯上がりの肌はやわらかく光っていて、輪郭は静かなのに、妙に目を引く。私は思わず見入ってしまい、そのまま流されるように、自分のタオルにも手をかけていた。

布が離れた瞬間、ひやりとした空気が肌を撫でた。けれど、すぐにそれ以上の感覚が押し寄せてきた。恥ずかしさ。開放感。誰かに見つかるかもしれない高揚。全部がいっぺんに胸の中でぶつかり合って、頭が少しぼんやりした。

私たちは岩に腰を下ろし、下半身だけ湯に浸けたまま、しばらく夜風に当たっていた。お湯の縁に肩を預けると、身体の熱が少しずつ抜けていく。会話も、だんだんとくだらないものになっていった。旅行の話、仕事の愚痴、昔の失敗。そんなことを、笑いながらぽつぽつ話していた。

入り口からは少し離れていたし、私たちはすっかり油断していた。横向きに座っていたから、誰かが入ってきても気づきにくい位置だったのもまずかった。完全に気が緩んでいたのだ。

どれくらい経っただろう。夢中でしゃべっていた最中、ふいに入口のほうで足音がした。

顔を上げた瞬間、そこに男の人が立っていた。年配の、ひとりのおじさんだった。

「えっ」

声にならない声が出た。私とまいはほとんど同時にお湯へ沈み込んだが、当然、タオルは岩の上のままだ。取りに行く余裕なんてない。

おじさんは何事もなかったように湯船へ入ってきて、「お邪魔してすみませんね」と言った。口調は穏やかだったのに、その場の空気は一気に凍った。

私たちは顔を見合わせた。たぶん、同じことを思っていた。いつから見られていたのだろう、と。

お湯の中で身体を小さく丸め、必死に隠す。けれど、隠せば隠すほど、余計にみじめな気分になる。まいが小声で「最悪」とつぶやき、私はうなずくしかなかった。

おじさんはしばらく黙っていたが、やがてにやにやしながら話しかけてきた。

「二人ですか」

返事はした。けれど、声はうまく出なかった。

さらにおじさんは、私たちの反応を楽しむように、わざとゆっくり言った。

「そんなに隠さなくても、さっきのところは十分見えましたよ」

その言葉に、背筋がぞっとした。嫌な感じだった。たぶん、入口にいたときから、ずっとこちらを見ていたのだろう。そう思うと、恥ずかしさより先に、腹立たしさがこみ上げてきた。

早く出たい。でも、あのおじさんはちょうど脱衣所へ向かう通路のそばにいて、そこを通らないとタオルも取れない。しかも、私たちが困っているのをわかっているような顔で、わざとゆっくり湯に浸かっている。

まいと目を合わせた。たった一瞬で、気持ちが通じた気がした。

「もういいよね」

無言の合図だった。

次の瞬間、私たちは勢いよく湯船から立ち上がった。

隠すそぶりも見せず、真正面からおじさんの前に立つ。湯気の中で、身体はむき出しのまま、逃げるための小さな言い訳も捨ててしまった。

「そんなふうにコソコソ見て、見たいならどうぞ」

私は震える声で、でもはっきりそう言った。

まいは最後に、吐き捨てるみたいに「……で、満足?」と重ねた。

そのまま二人で、何事もなかったようにおじさんの前を横切った。身体のどこかが熱く、どこかが冷たい。変な感覚だった。

脱衣所へ駆け込み、タオルを身体に巻いた瞬間、全身の力が抜けた。安心したのに、逆に顔は火が出そうなほど熱い。脚も少し震えていた。

あんな近くで、あんなふうに見せつけてしまったのだと思うと、あとからじわじわ羞恥が押し寄せてくる。お湯から上がったときの位置関係を思い出すたび、ぞわっとした。まいがあまりに堂々としていたから、私もつい勢いでやってしまったのだ。

部屋に戻ってからも、しばらく心臓は落ち着かなかった。布団に入っても、さっきの湯気、夜風、まいの横顔、おじさんのにやついた顔が何度も浮かんでくる。

あんな形ではなかったら、混浴も少しは悪くなかったかもしれない。

そう思いながら、私はなかなか眠れずにいた。

最終更新:

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