2年前の3月、私は30歳だった。結婚式を控え、母が着たのと同じウエディングドレスを受け取りに、田舎の祖母の家へ向かった。車で何時間もかかる道のりだったけれど、不思議と苦ではなかった。母の思い出が詰まった一着を、自分の手で抱えて帰る。そのことに、少しだけ胸が高鳴っていた。
ところが、試着の瞬間にその気分は一変した。胸まわりはぴったりなのに、ウエストがきつくてファスナーが上がらない。鏡の前で固まった私を見て、祖母は「あらあら」と困ったように笑った。私はその場で腹をくくった。どうしてもこのドレスを着たい。そう決めたら、やることはひとつしかない。
すぐに家へ電話を入れ、しばらく祖母の家にいるとだけ伝えた。ドレスが入らなかったことは、さすがに言えなかった。実家に戻れば楽かもしれない。でも、仕事もやめたばかりで、友人との食事の誘いも多い。誘惑だらけの場所にいては、気持ちも体も緩んでしまう気がした。だから私は、知り合いのいないこの田舎で、自分を追い込むことにした。
母は胸が豊かなくせに、ウエストが驚くほど細かった。私も同じ体質だから、やみくもに食事を減らすのは怖い。胸を落としたくなかった私は、午前中はプール、昼はジム、夕方はジョギングという生活を始めた。最初の数日は、ただ息を切らして終わるだけだった。それでも、規則正しく体を動かしていると、少しずつ気持ちが整っていくのがわかった。
祖母の家の近くには、大きなグラウンドがあった。周囲にはジョギングコースが整備され、その隣には城跡の公園が広がっている。走っているうちに、グラウンドでいつもサッカーをしている高校生たちの姿が目に入るようになった。何周か走って疲れると、私はグラウンド脇の長いベンチに腰を下ろし、息を整えながら彼らを眺めた。
最初は、それだけだった。けれど何日か経つと、向こうも私の存在に気づいたらしい。ある日、いつものようにベンチへ向かうと、すでに彼らが座っていた。私は少し離れた芝生に腰を下ろした。そのとき、ひとりの少年がペットボトルの水を差し出してくれた。
「これ、よかったら飲んでください」
思わず笑ってしまうほど、素直でまっすぐな声だった。私は礼を言って水を受け取り、ひと口飲んだあと、彼らのところへ戻った。話してみると、みんな地元の高校生で、もう卒業して時間を持て余しているのだという。身体を動かす場所があるから、毎日のようにここへ来ているらしかった。
「いつも走りながら見てたから、ちょっと気になってたんだよね」
そう言うと、彼らは少し照れたように笑った。私が30歳だと知ると、ひとりは「もっと若いと思ってました」と目を丸くした。別の子は、私のジョギング姿を前から見ていたと、あっさり口にした。若い子って、遠慮がない。でも、その無邪気さが妙に心地よかった。
私は冗談まじりに、胸の揺れを見られていたことをからかってみた。すると彼らはどんどん調子に乗り、スポーツブラのことや、服の下のことまで興味津々で聞いてくる。私は笑いながら受け流し、時には少しだけ意地悪く答えた。すると彼らの反応がまた面白くて、気づけば毎日の休憩が、ひとつの楽しみになっていた。
その関係は、妙に軽くて、妙に近かった。私は年上らしく振る舞っているつもりだったけれど、向こうは向こうで、私をただの「おばさん」とは見ていないようだった。むしろ、からかえる相手として、どこか特別に扱ってくれていた気がする。私自身も、彼らのまっすぐな視線に、少しだけ浮かれていたのかもしれない。
一週間ほど経った頃、いつものように休憩していると、彼らの様子が少し違うことに気づいた。落ち着かないというか、そわそわしている。何かあるのかと聞くと、ひとりが私の服装を見て、今日は少し目立つと言った。そこで初めて、私はスポーツブラを忘れていたことに気づいた。薄いタンクトップ越しに、体の輪郭が思った以上にはっきり出ている。
今さらパーカーを着直すのも気まずい。私はそのまま平然を装い、汗をかいているし、このままで大丈夫だと笑った。すると彼らは、隠さない私の態度にますます動揺したようだった。ひとりが胸の大きさを指摘し、別のひとりは、前から揺れ方を見て気になっていたと口にする。私は肩をすくめながら、体質の話や、運動しているからこその悩みを軽く返した。
けれど、その場の空気は少しずつ熱を帯びていった。私がふざけ半分で彼らに立ってみろと言うと、3人ともそろって立ち上がった。ジャージ越しでも、年頃の男の子たちの反応は隠しようがない。私は思わず笑ってしまった。からかっているつもりが、逆にこちらが追い詰められているようでもあった。
「彼女もいないなら、ちょっとくらい許してよ」
そんな甘えた言い方をされると、年上の余裕を保つのが難しい。私はしばらく迷ったあと、人気の少ない公園の奥なら少しだけ、と条件をつけてしまった。まさか自分が、そこまで踏み込むとは思っていなかったのに。
グラウンド脇の林を抜け、小さな小屋の裏へ行くと、さっきまでの開けた空気は消えた。木々に囲まれた薄暗い場所で、彼らはさっきよりもずっと真剣な顔をしていた。私は、見せるのはそこまでだと念を押し、誰にも言わない約束をさせた。すると彼らは何度も頷き、子どものように素直な目を向けてきた。
そのまま私はタンクトップを脱いだ。ひんやりした空気が肌を撫で、急に自分の輪郭がむき出しになる。年下の視線が一斉に集まるのを感じて、さすがに少しだけ息が詰まった。それでも、引き返すつもりはなかった。ここまで来たのだから、と自分に言い聞かせた。
彼らは遠慮なく近づいてきた。汗の匂いがどうだとか、柔らかいとか、思ったことをそのまま口にする。私は顔が熱くなるのを感じながらも、からかい返すように笑っていた。自分でも驚くほど、私はその場の空気に飲まれていた。理性より先に、胸の高鳴りが勝っていた。
ひとりがそっと触れてきた。別のひとりも続く。私は思わず声を漏らし、敏感なところを刺激されるたびに身をよじった。若い手つきは不器用だったけれど、ためらいがないぶん、妙に熱が伝わってくる。私は「だめ」と言いながらも、完全には拒めなかった。
やがて彼らの好奇心は、私の反応そのものへ向かった。どこが感じるのか、どうすると声が出るのか。聞かれるたびに、私は恥ずかしさをごまかすように言葉を返し、時には自分から見せるような仕草までしてしまった。もう止まれない。そんな感覚が、頭の片隅にずっとあった。
やがて私は、彼らにせがまれるまま、さらに奥へ踏み込んでいった。誰も来ないとわかっていても、こんな場所でこんな姿になるなんて、少し前の自分なら想像もしなかっただろう。けれど、不思議と嫌ではなかった。むしろ、若い彼らに見つめられることで、自分の中のどこかが解けていくようだった。
私は自分の胸を両手で包み、ゆっくりと刺激を加えた。最初は照れ隠しのつもりだったのに、すぐにそれだけでは済まなくなる。体の奥から熱がせり上がってきて、息が乱れた。彼らもまた、目の前の光景に耐えきれない様子で、互いに視線を交わしながら落ち着かない動きを見せていた。
私が自分で自分を追い込むように触れていくと、彼らの反応はさらに露骨になった。私はその視線を感じながら、どこかで「ここで終わるはずだったのに」と思っていた。けれど、もう遅かった。体はすっかり熱を持ち、頭の中は白く霞んでいく。
ひとりが私のそばに寄り、別のひとりも身を乗り出した。私は息を呑み、逃げる代わりに、その場の流れに身を任せた。彼らの年齢も、立場も、ここが本来どんな場所であるべきかも、全部が少しずつ遠のいていく。残っていたのは、夕暮れの林の匂いと、肌に触れる空気の冷たさ、それから胸の奥で鳴り続ける鼓動だけだった。
結局、その日のことは誰にも言っていない。祖母にも、家族にも、もちろん結婚相手にも。ただ、あの田舎のグラウンドへ行くたびに、私は少しだけ思い出す。ウエディングドレスを着るために始めたはずのダイエットが、思いもよらない方向へ私を連れていったことを。
あの頃の私は、真面目で、少し無茶で、そして驚くほど寂しがりだったのかもしれない。年下の子たちに向けた軽口も、からかいも、たぶん全部、誰かに見てほしかった気持ちの裏返しだった。そう考えると、あの夕方の出来事は、ただの逸脱ではなく、私の中の隠れていた衝動がふいに顔を出した時間だったのだと思う。
今でも、あのグラウンドのベンチを思い出すと、胸の奥が少しだけざわつく。風の匂い、土の感触、少年たちのまっすぐな目。あの短い季節は、私の中で妙に鮮明なままだ。

あの日から時間は流れたけれど、私はあの出来事を妙に丁寧に覚えている。結婚式のための焦りと、田舎の静けさと、若い子たちの無邪気さ。その全部が重なって、ひとつの忘れがたい夜になった。人は、追い詰められたときに意外な顔を見せるものだ。私もきっと、そのひとりだった。
そして今は、あの頃より少しだけ落ち着いている。けれど、胸の奥に残る熱だけは、なかなか消えないままだ。