R18短編小説

ギフテッドの叔母を持つ清美が語った秘密

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執筆:編集部(原記事に基づく再編集) 編集部による品質基準審査済み
ギフテッドの叔母を持つ清美が語った秘密

「ギフテッド……? それ、何のこと?」

ミユが眉をひそめた。いつもの強気な調子はあるのに、言葉の端にだけ小さな戸惑いが混じっている。

それに続いて、ユウキが少しだけ首をかしげた。「生まれつき、すごく高い能力を持つ人のこと、だよね」

清美はその場で息をのんだ。視線を落としたまま、指先をぎゅっと握りしめる。しばらく黙っていた彼女は、ようやく絞り出すように言った。

「……うん。叔母さんは、そのギフテッドなんです」

その一言で、空気が変わった。

廊下のざわめきが遠のいた気がした。窓の外では、部活帰りの学生たちが行き交っているのに、この一角だけ時間が止まったみたいに静かだった。

清美は唇を噛み、言葉を選ぶように続ける。「本来なら、叔母さんの持病は……能力を削る方向に働くはずなんです。体力も、集中力も、全部が不利になる。なのに、あの人はそれを見せなかった。むしろ、周りがついていけないくらいの速さで、何でもこなしてしまった」

ミユが小さく息を吐いた。「そんな人、いるの……?」

「いるよ」

清美の返事は即答だった。迷いがない。そこには、長い間ずっと見上げてきた者だけが持つ確信があった。

「私、子どもの頃からずっと見てきたんです。叔母さんは、勉強だけじゃない。人の表情を読むのも、場の空気を変えるのも、何かを始めるタイミングを掴むのも、全部が早かった。けれど、そのぶん無理もしてた。笑ってるのに、夜になると立てなくなる日もあった」

その語り口は淡々としているのに、どこか痛々しかった。清美にとっては自慢話ではなく、ずっと胸にしまってきた事実なのだろう。

ユウキが静かに問う。「病気があるのに、どうしてそんなに……?」

清美は少しだけ目を伏せた。「たぶん、普通じゃなかったからです。弱さがあるからこそ、工夫できた。休み方も、力の抜き方も、誰より真剣に考えていた。叔母さんは、才能だけで突っ走る人じゃない。自分の限界を知ったうえで、それでも前に出る人なんです」

ミユの表情が、ほんの少しだけ変わった。驚きだけではない。理解しようとする顔だった。

「それで……その人が、今の話とどうつながるの?」

清美は一度だけ深呼吸してから、まっすぐ前を見た。

「私がここに来た理由です。叔母さんは、私にずっと言っていました。才能は、持っているだけじゃ意味がない。隠しても、誇っても、使い方を間違えれば人を傷つける。だから、自分が何者なのかを知って、どこで誰と手を組むかを見極めなさいって」

その言葉は、まるで長い手紙の最後に書かれた一文みたいだった。重くて、簡単には返せない。

ユウキは少し考え込んだあと、ゆっくりうなずいた。「つまり、清美さんは叔母さんのことを誇りに思ってるんだね」

「……はい」

返事は小さい。でも、確かだった。

「誇りです。怖いくらい、すごい人だから。近くにいると、私なんか全部見透かされる気がする。でも、逃げたくはない。あの人みたいになりたいわけじゃないけど、あの人に恥ずかしくない自分でいたい」

ミユはその言葉を聞き、少しだけ視線を逸らした。いつものように強気な返しをしなかったのは珍しい。けれど、その沈黙は拒絶ではなく、考える時間だった。

「……ふうん。じゃあ、その叔母さんって、今どこにいるの?」

清美は一瞬だけ表情をゆるめた。「今日は来ていません。体調がいい日じゃないので。でも、連絡は取れます。私が迷ったときは、いつも短い言葉で返してくれるんです。『自分の目で見なさい』って」

その言い方が妙に似合っていて、ユウキは思わず小さく笑った。

「厳しいけど、優しいね」

「……優しいです。たぶん、すごく」

清美はそこでようやく、肩の力を少し抜いた。ずっと抱えていたものを、ほんの少し外に出せた顔だった。

ミユは腕を組んだまま、窓の外を見た。夕方の光が彼女の横顔を赤く染めている。

「ギフテッドか……。なんか、遠い世界の話みたいでムカつくけど」

言いながらも、声にはいつもの刺々しさがない。

「でも、病気があっても勝てる人がいるってことなら、少しは面白いじゃない」

清美が目を見開いた。「……ミユさん」

「なによ。別に褒めてない」

そう言い切るくせに、ミユの耳は少し赤かった。

ユウキはその様子を見て、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じた。三人の距離は、まだ完全には縮まっていない。けれど、さっきまでの張りつめた空気はもうない。

秘密が一つ明かされるたび、人は少しだけ別の顔を見せる。

清美の叔母がどれほど特別な人なのか。清美がその背中をどれほど真剣に追っているのか。そして、ミユが本当はどれだけ他人の痛みに鈍くないのか。

ユウキはそれを、静かに受け止めていた。

夕方の教室の隅で、三人が少しだけ打ち解けた緊張感のある場面

「私、ずっと思ってたんです」

清美がぽつりと続けた。「才能がある人は、最初から全部持っているんだって。でも違った。持っているからこそ苦しいこともあるし、何もかも順風満帆なわけじゃない。むしろ、見えないところで必死に調整してる」

「その人を知ってるから、そう言えるのね」

ユウキの言葉に、清美は小さくうなずいた。

「はい。だから私も、ただ憧れてるだけじゃだめだと思ったんです。叔母さんの話を聞くたび、私は何を見て、何を選ぶべきか考えるようになった。……それで、ここに来たんです」

「ここに?」

「ええ。人の関係が、単純じゃない場所に」

その言葉に、ミユが鼻で笑った。「ずいぶん回りくどい言い方するじゃない」

「でも、本当のことです」

清美は少しだけ微笑んだ。かすかな笑みだったが、さっきまでの緊張でこわばっていた顔には十分すぎる変化だった。

ユウキは、その笑顔を見て気づく。清美はただの説明役ではない。自分の家族のことを語ることで、ようやくこの場に立てたのだ。秘密を打ち明けることは、弱さをさらすことではなく、信頼を置く相手を選ぶ行為なのだと。

ミユはしばらく黙っていたが、やがて小さく肩をすくめた。

「ま、いいわ。すごい叔母さんがいるのは分かった。で、その人の言う“自分の目で見ろ”ってやつ、あんたはちゃんと守れてるの?」

清美は一瞬だけ目を丸くし、それから真面目な顔に戻った。「……まだ、途中です。でも、見ようとしてます」

「なら合格」

短い一言だった。けれど、ミユにしては最大級の歩み寄りに聞こえた。

ユウキは思わず笑ってしまった。すると二人が同時にこちらを見る。

「なに笑ってるの」

「いや……なんか、少しだけ安心したから」

本音だった。誰かの秘密が明かされると、関係は壊れることもある。けれど今回は違った。むしろ、見えなかった輪郭が少しずつ浮かび上がってきた気がした。

清美は、ただの控えめな後輩ではない。強い家族の影を背負いながら、自分の足で立とうとしている。ミユも、ただ刺々しいだけの存在ではない。人の話を聞き、認める余地をちゃんと持っている。そう考えると、ユウキの胸の中で何かが静かにほどけていった。

「ねえ、ユウキ」

ミユがふいに呼んだ。

「あんたはどうなの。あんたにも、誰にも言ってないこととかあるんじゃないの?」

唐突な問いだった。けれど、その声にはからかいだけでなく、少しだけ真剣さがあった。

ユウキはすぐには答えなかった。窓の外に目をやる。空はもう夕焼けに沈みかけていて、校舎の影が長く伸びている。

秘密は、ひとつ明かせば終わりではない。むしろ、そこから次の問いが始まる。

そして、たぶんそれでいいのだ。

ユウキはゆっくり息を吸い、三人の間に流れる静かな期待を感じながら、次の言葉を探した。

その先に何が待っているのかは、まだ誰にも分からない。ただ、今までよりは少しだけ、互いのことを知った気がしていた。

大学の夕暮れは、思っていたよりもずっと長い。長くて、やさしくて、そして少しだけ危うい。

その曖昧な時間の中で、三人の関係はまたひとつ、形を変えようとしていた。

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