東京に出てきたばかりの頃、私はひどく浮ついていた。見知らぬ街の空気はまぶしく、同時に少しだけ怖かった。けれど、いちばん強く胸を満たしていたのは、不安よりも「やっと自分の息ができる」という解放感だった。
田舎で育った私は、六人家族の中で育ち、まわりには顔見知りばかりがいる環境が当たり前だった。放課後に集まる場所も限られていて、友だちといえば、派手な子か気の強い子が多かった。にぎやかではあったけれど、どこかでずっと窮屈さを抱えていたのだと思う。東京の大学に入って一人暮らしを始めたとき、ようやく誰にも見張られていない、と思った。
その自由の中で、私はずっと隠していた自分の気持ちにも向き合うことになった。誰にも言えない、言うつもりもなかった好み。年下の男の子に妙に惹かれてしまう、その感覚だった。
きっかけは、高校一年のころに付き合っていた彼の家での出来事だった。彼には小学生の弟がいて、三人で部屋にこもってゲームをすることがよくあった。弟はまだ幼く、無邪気で、少し生意気で、そのくせ妙に大人びた顔を見せることもあった。ある日、ふざけていた彼が弟のズボンを勢いよく下ろしてしまい、弟は真っ赤になって固まった。その瞬間の、恥ずかしさでいっぱいになった表情が、なぜか胸に残った。
私はそのとき、自分でも説明のつかない高揚を覚えた。幼さと照れくささが混ざった反応に、目が離せなくなってしまったのだ。そこから先は早かった。街でかわいらしい男の子を見かけると、つい視線で追ってしまう。話しかけられそうな場面があれば、気づけば口を開いていた。
やがて、自分の中にある感覚にそれらしい名前があることも知った。ネットで見かけた言葉をきっかけに、私は「自分はこういうものに惹かれるのかもしれない」と理解した。そこから先は、見てはいけないものを見てしまったような気持ちと、もう隠しようのない興味が、ずっと同居していた。
東京に行きたかった理由は、もともとはもっと単純だった。昔から、都会に住んでみたいと思っていた。ただ、心のどこかでは「ここなら、何かが変わるかもしれない」とも期待していた。今思えば、かなり危うい期待だったと思う。でも当時の私は、それを止める術を知らなかった。
上京してからも、かわいい男の子を見つけると目で追う癖は変わらなかった。新しくできた友人に「見すぎじゃない?」と笑われたこともある。そのたびに、私はごまかして笑うしかなかった。何事も起こらないまま三か月ほど過ぎたころ、私は妙に焦り始めた。待っているだけでは何も変わらない。そう思って、半ばやけくそで動き出した。
とにかく、タイプだと思った子には話しかけてみよう。最初はそれだけだった。相手が警戒しないように、明るく、軽く、無邪気に。私はもともと人見知りが強いほうではなく、相手が小さく戸惑っても、少し時間がたてば打ち解けられることが多かった。だからこそ、最初の一歩さえ踏み出せれば、会話そのものは苦ではなかった。
ただ、その頃の私はまだ加減を知らなかった。仲良くなれた嬉しさのまま、少しからかって、少し距離を詰めて、相手の反応を見て楽しむようなやり方をしていた。今思えば、かなり危ないことをしていた。相手が年下である以上、なおさら慎重であるべきだったのに、当時の私はその線引きを甘く見ていた。
ある日、上野の公園でグルメイベントが開かれていた。私はひとりでアイスを食べながら、屋台のあいだをぶらぶら歩いていた。人は多かったけれど、週末の浮ついた空気のせいか、どこかのんびりしていた。そこでベンチに座って串焼きを食べている二人の男の子が目に入った。
一人はS君、もう一人がY君だった。最初に目が留まったのはY君のほうだった。色白で、髪はやわらかいマッシュ。まつげが長くて、着ていた紺色のトレーナーもよく似合っていた。小柄で、まだあどけなさが残っていて、思わず視線を奪われた。
私は迷わず近づいた。「それ、どこで売ってたの?」と声をかけると、二人は一瞬きょとんとして、それから少しずつ表情をゆるめた。こういう場面では、私は妙に強かった。相手が警戒していても、こちらが明るく話し続けると、案外すぐ空気が変わる。
話を聞くと、二人は中学一年生で、ちょうど動物園を出たところだったらしい。S君は少し背が高く、Y君はさらに小さかった。私はベンチの前にしゃがみこんで、同じ目線になるように話した。そうすると、相手も少し安心するのか、声が出やすくなることがある。
Y君は、私の着ていた茶色のパーカーに興味を示した。「かっこいい」と言うのだけれど、どこか恥ずかしそうで、最後まで言い切るのに時間がかかった。その反応が、私にはたまらなく可愛く見えた。
「センスあるじゃん。かわいいでしょ」と私が返すと、Y君は少しむっとした顔をした。けれど、すぐに耳まで赤くなる。そのたびに、私はますます意地悪になっていった。「顔、赤くなってるじゃん」「かわいいって言えばいいのに」と重ねると、Y君は照れ隠しにS君へ突っかかるような言い方をした。
そのやり取りが、妙に愛おしかった。私はその瞬間、もう少し踏み込んでも大丈夫かもしれない、と勝手に思ってしまった。もちろん、そんな判断は軽率だった。相手が照れて笑ってくれるからといって、どこまで受け入れているかは別問題だ。だけど当時の私は、そこを見誤っていた。
三人で一時間ほど話していると、S君が「トイレ行ってくる」と言って走っていった。するとY君も「俺も」と続きそうになり、私は少し寂しそうなふりをして引き止めた。「一人さみしいんだけど」と口にすると、Y君は「じゃあ待ってる」と言う。けれど私は、冗談だよと笑って送り出した。
Y君はその場に残るのが少し気まずかったのか、落ち着かない様子で立っていた。私はその姿を見て、ますます気持ちが高ぶっていった。無邪気な反応、赤くなった耳、言葉に詰まる感じ。その全部が、私の中の危うい好奇心を刺激した。
「Y君、まつげ長いね。ほんとかわいい」と言うと、彼は「かわいくない」と目をそらした。私はその反応に満足するどころか、さらに距離を詰めた。頭をなでたり、軽く肩に触れたり、冗談めかして顔を近づけたりした。するとY君は困ったように身を引いたが、完全には逃げなかった。その曖昧さを、私は勝手に都合よく受け取っていた。
気づけば、私はもっと強引になっていた。私は彼にハグを求めた。何度か断られたが、私はしつこく食い下がってしまった。「一回だけ」「今だけ」と笑いながら、相手の戸惑いを軽く扱ってしまった。
最終的に、私は半ば強引に抱きしめた。今ならはっきり分かる。あれは、相手の同意を十分に確かめた行動ではなかった。あの場の空気が軽かったとしても、年下の相手に対してしてよい振る舞いではない。私はそのことを、当時はきちんと理解できていなかった。
Y君はしばらく黙っていた。私は「ありがと」と言って、勝手に満足していた。ところが、彼の様子は明らかに落ち着かなくなっていた。手の置き方も、視線も、さっきまでとは違う。私はその変化を見て、妙な興奮を覚えた。自分の言動が相手に影響している、その事実に酔っていたのだと思う。
そして私は、最悪な言葉を口にしかけた。相手をからかうつもりで、境界線を踏み越えるようなことを言おうとした。だが、その瞬間の空気は、もう冗談で済ませられるものではなかったはずだ。あのとき、私は止まるべきだった。
結局、S君が戻ってきたことで、その場は流れた。何事もなかったように会話が再開され、私は平静を装った。けれど内心では、まだ心臓が速く打っていた。自分が何をしようとしていたのか、完全には整理できていなかった。

その帰り道、私はずっと考えていた。私は何を求めていたのか。かわいい、という気持ちだけでは説明できない熱があったのは確かだ。でも、それを理由に相手の気持ちを置き去りにしてよかったわけではない。あの頃の私は、自分の欲望に振り回されていて、相手の年齢や立場、感じ方をきちんと見ていなかった。
今なら、あの場面はもっと別の形で終わらせるべきだったと分かる。話しかけること自体が悪いわけではない。けれど、相手が未成年である以上、距離の詰め方には明確な限度がある。好意や興味があるとしても、相手の安心を壊すような行動は許されない。
上京したての私は、自由になった気がしていた。その自由を、私は少し勘違いしていたのだと思う。何をしてもいい、ではない。誰にも知られないから大丈夫、でもない。ひとりで暮らし始めたことで、むしろ自分の中の線引きを自分で引かなければならなくなったのに、当時の私はそこから目をそらしていた。
あの頃の私は、誰にも言えない気持ちを抱えたまま、東京の街で少しだけ暴走していた。けれど、その後の時間の中で、私は少しずつ自分の未熟さを知っていった。好き嫌いの感情と、してよいこと・してはいけないことは別だと、遅まきながら学んだ。
あの日の上野公園の空気、赤くなったY君の顔、何気ない会話の温度。今でも細かく思い出せる。だが、思い出せるからこそ、あれは軽く語ってよい出来事ではないとも感じている。私はあのとき、楽しさに紛れて境界を曖昧にしてしまった。
だからこそ、今ならはっきり言える。相手が年下であればあるほど、こちらが慎重でなければならない。可愛いという感情が湧くこと自体を否定はしない。けれど、その感情を他人にぶつけるときは、相手の年齢、立場、同意、そして安全を最優先にしなければならない。
あの頃の私は、ただの好奇心と、自分でも扱いきれない衝動に振り回されていた。今振り返ると、ずいぶん危うい若さだったと思う。けれど、その危うさごと、私は東京での最初の時間として覚えている。
注意点・失敗例
この体験談のように、年下の相手に対して距離を詰めすぎるのは危険です。相手が笑っていたり、会話が続いていたりしても、同意があるとは限りません。
特に、未成年が相手の場合は、からかい、身体接触、性的な示唆を含む発言を避けるべきです。場の空気で流されると、あとから取り返しのつかない誤解やトラブルにつながります。
また、相手の反応を「嫌がっていない」と都合よく解釈するのも失敗のもとです。戸惑い、沈黙、視線をそらす動きは、同意ではなく警戒のサインであることがあります。
参考情報
- 厚生労働省 児童相談所虐待対応ダイヤル「189」
- 警察庁 こども・若者の安全に関する情報
- 内閣府 青少年の健全育成に関する情報
よくある質問
- 法的な同意年齢は何歳ですか?
- 日本では、改正刑法の施行により、性的同意年齢は16歳とされています。ただし、16歳以上でも、監護者による影響や立場の差、都道府県の青少年保護条例など別の規制が関わる場合があります。
- 未成年との距離感で特に気をつける点は何ですか?
- 身体接触、性的な発言、個人情報の聞き出しは避けるべきです。相手が未成年なら、年齢差が小さく見えても、保護者や周囲のルールを優先してください。
- SNSやメッセージでのやり取りにも注意は必要ですか?
- 必要です。やり取りの記録は残り、相手の年齢確認や同意の有無が問題になることがあります。直接会う前に、年齢と関係性を明確にし、少しでも不安があれば控えるのが安全です。
- プライバシーの観点では何を避けるべきですか?
- 相手の本名、学校名、居住地、顔写真などの個人情報を無断で共有しないことが基本です。本人の許可がない録音や撮影、公開投稿も避けてください。
- サービス利用規約に触れる可能性はありますか?
- あります。SNS、掲示板、出会い系、動画配信などは、未成年への接触や不適切な表現を禁止していることが多いです。各サービスの利用規約と年齢制限を確認し、違反しない範囲で利用してください。
※本記事に描かれるやり取りはすべてフィクションです。著者は、違法行為や他者に害を及ぼす行為を容認しません。年齢、同意、プライバシー、利用規約を守ることが前提です。
まとめ
- 上京直後の高揚感が、衝動を強めていった
- 相手が未成年である以上、距離の詰め方には明確な限度がある
- 可愛いという感情と、してよい行動は切り分けて考える必要がある