エロ体験談

庶務課の彼女と車内で揺れた夕方

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執筆:編集部(原記事に基づく再編集) 編集部による品質基準審査済み
庶務課の彼女と車内で揺れた夕方

転勤して間もないころ、僕は庶務課にいる一人の女性が気になって仕方なかった。派手に目を引くというより、近づくほどにじわじわと熱を帯びてくるような人だった。視線が合えば、どこか品のある笑みを返す。声は落ち着いているのに、耳に残る。そんな空気をまとった彼女は、S村Y子という名前で、地元では名の通った家の娘だと、後になってから知った。

僕が暮らしていたのは、会社が借り上げた独身者向けのアパートだった。事業所の前から出るバスに乗るには、歩いて三十分以上、急いでも四十分近くはかかる。しかも退社のタイミングを逃すと、次の便までかなり待たされる。仕事が終わったあとに残るあの妙な空白は、ただでさえ疲れた心をいっそう重くした。

庶務課の彼女とは、すれ違えば軽く会釈する程度だった。話しかけるほどの用事もなく、僕の側にも踏み込む勇気がなかった。相手は、働かなくても困らないような育ちの人間だ。そう思うと、同じ会社にいても、どこか別の世界の住人のように見えてしまう。距離は近いのに、手が届かない。そんな感覚だけが積もっていった。

その日も、退勤時間が迫ったころに電話が入り、僕は帰り支度が遅れてしまった。急いで片づけ、走ればまだ間に合うかもしれないとバス停へ向かったが、息を切らして着いたときには、もうバスの後ろ姿が道路の先へ小さくなっていた。ベンチに腰を下ろした瞬間、全身の力が抜けた。今日は駄目か。そう思った、そのときだった。

黄色いスポーツカーが、すっとバス停の脇に止まった。

最初は誰の車かもわからなかった。だが、窓が開き、運転席の彼女が僕の名前を呼んだ。まさか、と思うより先に、彼女は「送ってあげる」と当然のように言った。驚いて助手席に乗っていいのか尋ねると、彼女は肩をすくめて笑った。「嫌なら止まらないわよ」――その一言に、僕は断る理由を失った。

ドアを閉めた途端、車内の空気が変わった。革張りのシートの匂いの奥に、甘く濃い香りが混じっている。香水なのか、それとも彼女自身の匂いなのか、判然としない。ただ、近くにいるだけで胸の奥がざわついた。ハンドルを握る横顔は落ち着いているのに、どこかいたずらを思いついた子どものような危うさもあった。

彼女は少し時代を感じさせるミニワンピースを着ていた。座った姿勢のままでも、脚のラインがはっきりわかる。視線を落とせば、つい目が吸い寄せられてしまう。見てはいけないと思うほど、余計に気になる。僕は何度も前を向き直したが、そのたびに意識は同じ場所へ戻っていった。

渋滞で車が止まったとき、彼女がふいに口を開いた。

「ねえ。私の脚、気になる?」

心臓が一気に跳ねた。まさか気づかれているとは思わなかった。言い訳を探そうとしても、喉がうまく動かない。曖昧な言葉をいくつか並べるのが精いっぱいで、その様子を見た彼女は、まるで最初から反応を楽しんでいたみたいに、口元だけで笑った。

その笑みは、やけに深かった。からかっているのか、それとも試しているのか。どちらとも取れる表情のまま、彼女は前方の車列に視線を戻した。けれど、その横顔には確かな余裕があった。僕だけが慌てていて、彼女は最初から全部わかっている。そんな構図が、たまらなく悔しく、そして妙に熱かった。

車内は静かだった。エンジン音と、遠くで鳴るクラクション。窓の外では夕暮れが少しずつ色を落としていく。なのに僕の中だけは、妙に騒がしい。彼女の一挙手一投足に神経が引っ張られ、呼吸のリズムまで乱されていく。たった数分の同乗なのに、これまで何週間も積み上がっていた無関心が、あっさり崩れていくのを感じた。

彼女はハンドルを軽く切りながら、何気ない口調で続けた。

「あんまり見られると、困るんだけど」

その声は冷たくない。むしろ、わざと距離を詰めてくるような柔らかさがあった。僕が何か答える前に、彼女は前を向いたまま、さらに小さく笑った。まるで、僕の反応を一つひとつ拾い上げて楽しんでいるみたいだった。

やがて信号が青になり、車はゆっくりと動き出した。だが、僕の頭の中ではさっきの一言が何度も反響していた。脚を見ていたこと。気づかれていたこと。そして、それを彼女が嫌がるどころか、むしろ面白がっているように見えたこと。胸の奥が落ち着かない。熱だけが妙に鮮明だった。

アパートの近くまで来るころには、僕はほとんど何も言えなくなっていた。彼女はそれを見透かしたように、最後まで余裕のある態度を崩さない。車を止めると、僕のほうへ少しだけ顔を向けた。その瞬間、車内の空気がまた変わった。近い。近すぎる。そう思ったのに、身体は動かなかった。

「じゃあね」

たったそれだけの挨拶だったのに、妙に甘く響いた。ドアを開けて降りるとき、僕は振り返ることもできなかった。背中越しに感じる視線が、しばらく消えなかったからだ。アパートの階段を上がりながらも、耳の奥には彼女の声が残っていた。からかうようでいて、どこか本気を含んでいるような、あの声が。

その夜、ベッドに入っても、簡単には眠れなかった。車の中で見た脚の白さ、運転席で見せた悪戯っぽい笑み、そして「気になるの?」という問いかけ。どれもありふれた出来事のはずなのに、僕にとっては妙に生々しく、頭から離れなかった。彼女は本当に何気なく言っただけなのか。それとも、最初から僕の動揺を楽しんでいたのか。考えれば考えるほど、熱がぶり返してくる。

翌日、庶務課ですれ違った彼女は、昨日のことなど何もなかったような顔をしていた。だが、目が合った瞬間、ほんの一瞬だけ口元が動いた気がした。あれは偶然だったのか、それとも合図だったのか。僕には確かめる勇気がなかった。けれど、その短い時間だけで十分だった。彼女はもう、ただ遠くから眺めるだけの存在ではなくなっていた。

それからというもの、彼女を見るたびに、あの黄昏の車内を思い出すようになった。涼しい顔をして人を揺さぶる女性。こちらが一歩引けば、さらに半歩踏み込んでくるような危うさ。そういう人に、僕はすっかり翻弄されていたのだと思う。静かな職場のはずなのに、彼女がいるだけで空気が変わる。あの日の送迎は、そんな彼女の本性を、たしかに僕へ刻みつけた出来事だった。

今でも、ふとした瞬間に思い出す。バスを逃したあの夕方、黄色い車が現れた一瞬の驚き。助手席に座ったときの香り。何気ない問いかけに、たちまち崩れた平静。あれはただの親切だったのかもしれない。けれど僕には、彼女が最初からこちらの反応を楽しんでいたように思えてならない。

そして、その感覚こそが、いちばん忘れられない。手の届かないはずだった相手が、ふいに距離を詰めてくる。その一瞬に生まれる緊張と高揚は、どんな言葉よりも強く残る。僕とS村Y子の間にあったのは、ほんの短い同乗時間だけだった。だが、その短さの中に、妙に深く沈む余韻があった。

彼女は今も、庶務課で静かに仕事をしている。けれど僕にとっては、もう単なる同僚ではない。あの車内で見せた笑みと声が、いつまでも記憶の奥に引っかかっている。たぶん、あの日から僕は、彼女のことを以前のようには見られなくなったのだ。

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