私は十九歳の大学二年生で、休みになると城を巡るのが何よりの楽しみだった。日本百名城と続日本百名城のスタンプを集めるのが目標で、地図を広げては次に行く城を考える時間が好きだった。
今年のゴールデンウィークも、その計画で埋まっていた。愛知県内の城を一気に回る一泊二日の小さな遠征。朝から山城をいくつも登り、石垣を見上げ、曲輪を歩き回っているうちに、足は重く、ふくらはぎは張りつめたようになっていた。ホテルに戻った頃には、靴を脱ぐだけでも息が漏れるほどだった。
ビジネスホテルの部屋に入ると、机の上にマッサージの案内が置かれていた。オイルマッサージの文字が目に入り、私は少し迷ったあと、フロントに連絡を入れた。とにかく脚をどうにかしたかった。歩き疲れた体を、今夜のうちに少しでも軽くしたかったのだ。
しばらくして、部屋のチャイムが鳴った。扉を開けると、そこに立っていたのは、私が想像していた人ではなかった。
来たのは女性ではなく、中年の男性だった。背は高く、落ち着いた声で名乗ったが、私は一瞬で固まった。
「あの……女性の方をお願いしたつもりだったんですけど」
そう伝えると、相手は申し訳なさそうな顔をして、今は人手が足りず男性しか行けないと説明した。断ろうと思えば断れたはずなのに、私はその場で言い切ることができなかった。疲れ切っていたこともあるし、知らない人を前にして気まずさが勝ってしまったのだ。
結局、そのまま受けることにした。
男性は手際よく準備を進め、紙ブラと紙ショーツを差し出した。着替えるように言われ、私は浴室へ向かった。パジャマと下着を脱ぎ、言われた通りに身につける。慣れない薄い素材は頼りなく、体の輪郭を隠すにはあまりに心もとない。胸元も脚の付け根も、少し動けばすぐに存在がわかってしまいそうで、私は落ち着かなかった。
紙ショーツは小さく、履いた瞬間から妙に心許なかった。お尻の割れ目に沿うように食い込み、布が肌にぴたりと張りつく。紙ブラも同じで、胸を押さえ込むには窮屈すぎた。普段より自分の体がずっと無防備に感じられて、鏡を見るのもためらわれた。
ベッドに戻ると、男性は「うつ伏せになってください」と穏やかに言った。私は素直に従い、シーツに顔を伏せる。すると、足先から軽く撫でられ、そこへオイルが落とされた。冷たい感触が皮膚に広がり、山道を歩き続けた脚の疲れが、じわりと浮き上がってくるようだった。
最初は、確かに普通のマッサージだった。太ももの裏を押し、張った筋をゆっくりとほぐしていく。ところが、少しずつ手の位置が内側へ寄っていく。脚の付け根、鼠径部、そのあたりを丁寧に探るような動きになり、私は息を止めた。
さらに、お尻の境目を指先でなぞるような感触が何度も通り過ぎた。くすぐったさと気まずさが同時に押し寄せ、肩が小さく震える。思わず体が反応すると、男性は静かな声で確認してきた。
「こういう施術もありますが、問題ありませんか」
私は顔を伏せたまま、かろうじて返事をした。断れる雰囲気ではなかったし、疲れた頭はうまく働かなかった。
それから先は、体の熱が急に上がっていくような時間だった。手つきはだんだん大胆になり、紙ショーツの上からでは収まらないほどに、敏感な場所へ何度も触れられる。私は最初こそ身じろぎしていたが、オイルのぬめりと、逃げられない密着感に、次第に意識を奪われていった。
恥ずかしさで胸がいっぱいなのに、体は思うように拒めない。しかも、疲労で緩んでいたせいか、少し触れられるだけで全身が強く反応した。息が乱れ、声まで漏れてしまう。自分でも情けないと思いながら、止めることができなかった。
やがて男性は、私の反応を確かめるように、いっそう丁寧に、いっそう深く身体をほぐしていった。お尻のあたりを包み込むように押されるたび、奥まで熱が通る。痛みのようなものが、いつの間にか別の感覚に変わっていく。私はただ、顔を隠したまま息を飲むしかなかった。
「次は仰向けになってください」
その言葉に従って寝返りを打つと、今度は胸元へ手が伸びた。紙ブラの上から揉まれるだけでも、私は思わず肩を震わせた。布越しなのに、そこにある柔らかさがあまりに鮮明で、恥ずかしさが一気に膨らむ。
男性は、胸が張っているとでも言うように、ゆっくりと圧をかけた。包み込むように触れ、中央へ寄せ、指先で確かめるように扱う。私は熱を持った頬を隠すこともできず、視線を逸らしたまま、ただ耐えた。
やがて紙の感触が外され、直接の刺激が始まった。柔らかい部分を丁寧に揉まれ、指先で輪郭を追われるたび、体の奥からぞくりとしたものが湧き上がる。乳首に触れられると、背中が反る。逃げたいのに、逃げる余力がない。疲れ切った体は、抵抗よりも反応を先に選んでしまう。
私は自分の呼吸が浅くなっていくのを感じていた。ひとつひとつの接触が、妙に鮮明だ。肌が熱い。オイルの匂いが鼻の奥に残る。ベッドの上で、私は何度も小さく揺れた。
そのうち、男性は私の脚を開かせ、より深いところへ手を入れてきた。紙ショーツはいつの間にか外され、私は自分の姿をどう見られているのか考えるだけで、顔から火が出そうだった。けれど、羞恥で縮こまるたびに、逆に感覚は鋭くなっていく。
触れられる場所が増えるほど、体の奥にたまっていた緊張がほどけていった。私はもう、最初に感じていた警戒心をうまく保てていなかった。疲れ、恥ずかしさ、戸惑い、そしてどうしようもない高まりが、ひとつに混ざっていく。意識はぼんやりしているのに、感覚だけが妙に生々しい。
気づけば、私はシーツを握りしめていた。声を抑えようとしても、喉の奥からは細い息がこぼれる。鏡のある位置へ顔を向けられたとき、自分の表情を見てしまい、さらに息が詰まった。頬は赤く、目元は潤み、完全に余裕を失っている顔だった。
男性は淡々とした口調を崩さないまま、私の反応を見守っていた。手は止まらない。むしろ、私が耐えようとするほど、少しずつ追い込まれていくようだった。私はもう、何をどうしてほしいのかもわからなくなっていた。
やがて、私は何度も強く波に飲まれるような感覚を味わった。熱が引いては戻り、また引いては戻る。そのたびに体の力が抜け、思考が白く飛ぶ。長く続いた張り詰めた時間のあと、ようやく手が離れたときには、私はすっかり放心していた。
男性は何事もなかったように片づけを始め、最後に静かに頭を下げた。そして料金を受け取ると、部屋を出ていった。扉が閉まったあと、部屋には妙な静けさだけが残った。
私はしばらく起き上がれなかった。ベッドの上でぼんやり天井を見つめながら、さっきまでの出来事をうまく整理できずにいた。疲れ切っていたはずなのに、体の奥はまだ熱を持っている。落ち着こうとしても、呼吸はなかなか整わない。
鏡に映る自分は、まるで別人みたいだった。山城を歩き回っていた朝の自分とは違う、妙に頼りなく、顔だけが赤い姿。私はそのまましばらく動けず、ただシーツのしわを見つめていた。
やっと立ち上がれた頃には、夜ご飯の時間が近づいていた。私は部屋を出る支度をしながら、まだ少しだけ現実感のないまま、ホテルの廊下へ向かった。長い一日だった。城を巡った疲れも、部屋で受けた戸惑いも、全部がひとつの夜に押し込められていた。
私はそのまま、次の朝もまた城へ向かうことになる。けれど、その夜のことは、しばらく忘れられそうになかった。

この出来事は、私にとってひとつの旅の記憶として強く残った。城巡りの達成感とはまったく別の意味で、あの夜の部屋は忘れにくい場所になった。
疲れているときほど、判断は鈍る。そう実感した夜でもあった。無理に我慢して流されるより、違和感があればはっきり断るほうがいい。今思えば、最初の時点でやめておけばよかったのだろう。
けれど、旅先での出来事は、いつも計画通りには進まない。だからこそ、あの夜の空気も、ホテルの匂いも、窓の外の静けさも、妙に鮮明なまま記憶に残っている。